英国海軍戦艦『バラクーダ』

 ワシントン条約締結により、世界最大の主砲を持つ戦艦は米『コロラド』型3隻と日『長門』型2隻、 それに英国の『ネルソン』型2隻の7隻のみとなってしまった。この7隻は「ビッグ・セブン」とも 呼ばれ長らく世界最強の戦艦として君臨したのだが、1939年9月にドイツがポーランドへ侵攻し たことにより第二次大戦が勃発、その1ヶ月後に世界最強の牙城の一角が崩されてしまうことになる とは誰が予想し得ただろうか。

 1939年9月30日、独ポケット戦艦『グラフ・シュペー』による通商破壊作戦の最初の犠牲商船 が出ると、英国海軍は積極的に大西洋での海上交通路警護に乗り出すことにした。そこで本国艦隊第 2戦艦戦隊に所属していた『ネルソン』『ロドニー』の2隻もスカパ・フロー泊地を後にし、大西洋 へ独ポケット戦艦狩りに出撃することになったのである。

 開戦時の英独海軍の総戦力(排水量合計比)は3倍もの差があり、英国海軍に慢心がなかったとは言 い切れないが、出港直後のこれら二大戦艦を待ち受ける狼の群に英軍将兵の誰もが気が付かなかった。 スカパ・フローを出港して4時間後、北海に乗り出した2隻を迎えたのは後に31隻・19万トンも の商船を沈め、最良のUボート艦長の一人と言われることになるギュンター・プリーン大尉(当時) が指揮するU−47をはじめとする5隻のUボート戦隊であった。
 扇状に散開していたUボート達は先頭を進む『ネルソン』に照準を定め、艦首発射管から各艦4発、 計20発もの魚雷を発射、うち12発の魚雷を受けた『ネルソン』は命中後数分で轟沈してしまった。
 この『ネルソン』喪失に色を失った英国海軍では1940年初頭に急遽代艦建造を計画した。当時ビ ッカース・アームストロング社とキャンメル・レイアード社では『ライオン』型戦艦の建造が進んで いたが、英国海軍の造兵担当者は代艦として建造する艦に『ネルソン』の基本設計を踏襲することを 提案し、慢心による油断や潜水艦に対する警戒を忘れないためという理由をチャーチル首相も認めた ため、代艦は『ネルソン』型同様の艦前部に3基の主砲塔を集中させた特異な形状で設計されること になったのである。
 ただし主砲に使用するはずだった16インチ砲は『ライオン』型への供給が優先されたため、適当な 砲が無く苦慮していたところ、『キングジョージV世』型の14インチ砲を換装するため研究開発さ れていた試作15インチ砲(マークII)が換装計画の中止により浮いたため、これを搭載することで 急場を凌ぐことができた。
 また副砲も『ネルソン』に搭載されていたマークXXIIでは無く、『リアンダー』型以降の軽巡に搭載 されたマークXXIII両用砲が採用されており、若干対空攻撃能力が強化されている。
 機関は『ライオン』型と同様のものが予定されていたが、『ライオン』型3番艦『コンカラー』の建 造が中止されたため『コンカラー』用に製造されたボイラーとタービンを流用することができたので、 当艦用に新造されることは無かった。この機関はオリジナルの『ネルソン』型に搭載されたものの3 倍もの出力を発揮できたため、速度性能の飛躍的アップが期待された。

 1940年末からジョン・ブラウン社にて建造が開始されたが、途中で幾つかの新機軸が盛り込まれ ることとなった。その筆頭としてあげられるのが超長波を利用した潜水艦探知システム(VLF Submarine Detector:VSDと略される)であった。(元々波長の長い電波は水中をも伝播できるため日本海軍 では潜水艦誘導用のビーコンとして使用していた)
 英国の技術陣は音波を利用した潜水艦探知システム(Anti Submarine Detector:ASDICと略されるが 後にSONAR:Sound Navigation and Rangingと呼称されるようになった)も同時期に開発していたが、 音波による探査では探知距離が限られており、遠距離での探知能力としては超長波の方が有利であっ た。しかしこのVSDは機構が巨大化し、通常対潜任務に従事する駆逐艦などに搭載することは不可能 であったため、建造途中だった当艦へ試験的に搭載することになったのである。このVSD搭載により 艦幅はオリジナルよりも若干大きくなってしまっているため、せっかくの出力アップによる速力増加 は思った程高くならなかった。

 紆余曲折あった建造工事も完了し1944年10月に竣工した当艦は、北海方面にて習熟訓練と新兵 器のテストを実施することにし、1945年1月4日に英本国を出港した。
 初代艦長には歴戦の駆逐艦乗りとして名を馳せていたサー・リチャード提督が任命されている。当艦 にはVSDによる対潜戦術の考案なども課せられていたため、対潜作戦のベテランである彼が艦長に選ばれ たのは順当なことであろう。

 ところが1945年2月10日に独潜水艦と遭遇、VSDを利用した巧みな戦術と主砲による砲撃で独潜 水艦を追いつめたものの、ドイツが開発した新兵器ホーミング(自動追尾式)魚雷が当艦に命中し、 バルジ内に装備されていたVSD装置の火災により弾薬庫が誘爆、当艦も爆沈してしまったのであった。 このとき勇敢にも単独で当艦と差し違えた独潜水艦は最も多く製造されたVIIC型Uボートだったが、 ホーミング魚雷を搭載するため改造が施された特殊型であり、艦番も規格外のU−0というナンバー が振られたものであった。このU−0の艦長は「隻眼の黒狼」と呼ばれたデスバルド・フォン・ドライゼ少 佐(当時)で、彼もリチャード提督同様の歴戦の指揮官であった。
 この極北の海で行われた海戦では両艦相打ちという結果に終わり、また氷点に近い海水温度という極 限状態だったため生存者はたった1名が救助されたのみという悲劇となってしまった。
 当艦が爆沈してしまったため英本国にVSDの有効性が伝わらず、この悲劇だけが伝わってしまったため 以降VSDの開発は凍結されることになったのである。


英国海軍戦艦『バラクーダ』(HMS Barracuda)
 基準排水量:34,850t(満載排水量43,500t)
 全長:217m、全幅:32.8m、吃水:11.1m
 機関:Admiralty罐重油焚8基、Parsons式ギヤードタービン4基
 出力:130,000馬力、4軸推進
 最大速力:28ノット、航続距離:16ktで12,000浬
 兵装:
  45口径15インチ3連装砲3基、50口径6インチ連装砲6基、
  40口径2pdr4連装ポンポン砲4基(艤装中に40mm4連装ボフ
  ォース機関砲に変更された)
 
(上記文章は架空兵器掲示板で筆者が公開したストーリーです)

 この艦は松本零士センセの作品『オーロラの牙』に出てくる架空艦に対して勝手にカバーストーリーやスペックを付け加えた ものです。海戦の内容や登場人物はコミックそのままですので、パクリだとか言わないでくださいね(笑)


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